題名:けなげ

 

4月1日、曇り。両親の死。

父と母が死んだ。死因は極度の性的興奮による心臓麻痺だった。

毎晩、あんなに喘いでたもんね。お父さん、お母さん。

これからは、私と12歳も離れたお兄ちゃんだけの2人ぽっち。淋しいな。

 

4月5日、曇り。お葬式。

二人のお葬式は、自宅にお坊さんを呼んで、十人程の親族だけでしめやかに行われた。

木魚を叩くお坊さんの背後に並べられた座布団に親族たちは正座し、涙をハンカチで拭いたり、数珠を両手で擦り合わせたりして悲しそうだった。

私とお兄ちゃんだけは、親族全員が見渡せるように横に座っていた。

「うっ、うっ。康子さん、どうして死んじゃったの……」

恵子おば様が泣いていた。お母さんとは良くホストに通っていた仲だった。

「ううっ。権八、ワシより早く死ぬやつがあるかあ」

権太おじいちゃんも泣いていた。お父さんとは血の繋がりがあった。

「……ぷっ」

お兄ちゃんも泣いていた、二人とは親子の間柄だった。

あれ、聞き間違いかな、何だか泣いてるような声じゃなかった。

横を向くと、お兄ちゃんがハンカチを口に咥えて斜め下を向けていた。

小刻みに体を震わせちゃって、やっぱり泣いているのかな。  

「お兄ちゃん、大丈夫?」

私はお兄ちゃんの太い腕を引いて、耳元で小さくささやいた。

「亜紀」

お兄ちゃんは目尻を下げた情けない顔で私を見る。

「大丈夫だよお兄ちゃん。私がついてるから」

軽く背中を撫でて、笑顔で答えてあげた。

「親父、反り返ってる。ぷっ」

「……えっ」

お父さんが、反り返るってなに。私は視線をお父さんの方に向けた。

すると、股間の辺りが死に装束を押し上げてもっこり膨らんでしまっている。

あら、やだ。お父さん勃起しちゃってるじゃない……。

その哀れもない姿に思わず笑いがこみ上げて、私は目を合わさぬよう斜め下を向いた。

何考えてるのお兄ちゃん、ちょっと不謹慎だよ。

「亜紀」

お兄ちゃんはまた私に話しかける。

「な、なあにお兄ちゃん?」

私は胸を押さえて答えた。

お兄ちゃんは私の髪をかきあげて、耳元でこう続ける。

「そびえ立つ、肉の巨塔。イン親父」

「……ぶっ!」

私はこらえきれなくなり、人目も憚らずにふきだしてしまった。

その時、一斉に私に向けられた冷たい視線、時が止まったような静寂。

一生忘れる事ができないと思う。ひどいよ、お兄ちゃん。

――葬儀は進み、二人を出棺する時がやってきた。

大柄で筋肉質なお兄ちゃんは、お父さんか、お母さん、どっちかの棺を大工さんみたいに1人で担ぎ上げて運搬しだした。

私もお兄ちゃんに先導されて、どっちかの棺を親族数人と力を合わせて運んでいた。

「ちょっと、お兄ちゃん。まっすぐ歩かなきゃダメだよ」

お兄ちゃんは少し足にきていた。

「亜紀」

「な、なに、お兄ちゃん」

気に障ったのかな、お兄ちゃんは霊柩車の目前で立ち止まり、首だけ私の方に向けた。

「ケーキ、入刀」

そう言って、お兄ちゃんは棺をゆっくり中へと押し入れる。

「ぶっ!」

また、ふきだしてしまった。その時の親族の反応は言うまでもない。

お兄ちゃんが悪いのよ、お兄ちゃんがケーキ入刀なんて言っちゃうから。

お兄ちゃんはいつもそうだ、何を考えているのか全然分かんない。

でも、私は不思議とそんなお兄ちゃんが嫌いじゃなかった。

御香典の総額は3万円、意外とみんなせこい。

 

4月12日、曇り。SMAP。

私は溜息交じりに台所で洗い物をしていた。

二人で暮らすようになってからは、私が家事、お兄ちゃんが働くといった大まかな役割分担を決めていた。

でも、お兄ちゃんはソファに腰掛けてウイスキーを飲むだけで、ちっとも働いてくれない。

思えば20年も一緒に暮らしてるのに、お兄ちゃんが何の仕事をしてるのか知らなかった。

家に1円もお金を入れてくれないし、毎日、氷が入ったグラスを回しては音を鳴らす、うるさい鈴虫を飼っているようだ。

今はお父さんの遺産があるから何とか食い扶持を繋いでいけるけど、お金が底を尽いた時の事を考えると不安だった。

「亜紀、ちょっと来い」

お兄ちゃんがソファから太い首を捻って私を呼んだ。

「うん、ちょっと待ってて」

私たち兄妹はあまり会話を交わさない。

見た目が怖くて話しかけづらいし、お兄ちゃんが無口な事もあいまって、日に2、3度会話があればいい方だ。

お兄ちゃんから話を切り出されたのは、お葬式以来だ。

「なあに、お兄ちゃん」

私は嬉しくなって顔がほころんでいた。

「お前、スマップ好きか?」

お兄ちゃんはポケットからタバコを一本取り出し、そんな質問を投げかけた。

「う、うん。好きだよ」

私は根っからのスマップのファンだった。

お母さんが生きてた頃は、二人で良くコンサートに行ったりしたものだ。

まさか、お兄ちゃんは私が好きな事を知ってて。

「じゃあ、コンサートでも行けば?」

「えっ……、ええ〜?」

お兄ちゃんは笑顔でそう冷たく返してきた。何考えてるのお兄ちゃん。

行きたくなったら勝手に行くよ。もしかして、暇つぶし、暇を潰す為だけに呼ばれたの?

私は苦悩した。言い返したくてもお兄ちゃんは、やり切ったような顔でタバコを吸っていたから。

本当はもっと深い意味があったのかもしれないって、考え込んでしまったから。

悩みぬいた末、私は携帯の番号を押してチケットピアに電話していた。

「あ、もしもし。スマップのコンサートチケットまだ残っていますか?」

売り切れていた。

 

5月13日、曇り。夕御飯。

二人で暮らし始めてもう1ヶ月。私とお兄ちゃんは今日も元気だ。

お兄ちゃんは相変わらず、ソファでボケっとしながらお酒飲んでるだけだけど。

少しずつ会話も増えてきたし、文句一つ言わずに私の手料理を食べてくれる。

何だか大きな子供ができたみたいで、私の母性本能は疼いていた。

「御飯できたよ」

私はお兄ちゃんが好きなカツ丼を盆に乗せ、ソファの前のテーブルに二つ並べた。

お兄ちゃんは素早くはしを取って、カツにがっついた。

「熱いから気をつけて食べてね」

「……」

お兄ちゃんは食事中一言も喋らない、きっと私の料理の虜になっているからだと思う。

私はほお杖をづいて、無言でカツを喰らうお兄ちゃんの様をじっと眺めていた。

「ねえ、美味しい? たまには素直に美味しいって言ってよ」

笑顔でお兄ちゃんにそう言い放った。一度で良いから、美味しいと言って欲しい。

すると、お兄ちゃんはピタリと動きを止め、はしを置いて、私をじっと見つめてきた。

「亜紀」

お兄ちゃんは眉をあげて、私に顔を近づけてくる。

「な、なに。どうかしたの?」

も、もしかして美味しいっていってくれるんじゃあ。

「もう寝なさい」

「えっ、そんなあ」

怒らせちゃったのかな、お兄ちゃんは不機嫌そうにまたカツに喰らいついた。

私は罪悪感を感じ、一口も手をつけずにそのまま寝室へと戻った。

美味しくなかったから、私がうっとうしかったから怒ったのかな。

答えが見えぬまま、私はベッドに潜り込んで泣きべそをかいていた。

うっ、うう。まだ7時だから寝れないよ。夜型の私には辛かった。

翌朝、なぜか流しの中に空のどんぶりが2つ並んでいた。

 

5月30日、雨。トイレ。

今日はいつもと少し違ってた。

夕御飯の用意ができたのでお兄ちゃんに声をかけにいこうすると、いつもはソファでお酒を飲んでいるお兄ちゃんの姿がない。

私が心配になって家中を探し回ったけど、お兄ちゃんの姿はどこにもない。

どこにいったのお兄ちゃん、黙って外出しちゃったのかな。

「はあ、はあ。気持ちいい……」

私が渡り廊下を歩いていると、暗いトイレの中から誰かの声が漏れていた。

お兄ちゃんトイレにいるのかな、私は恐る恐るトイレのドアに聞き耳を立てた。

「はあ、はあ。亜紀、亜紀〜」

私の名前を呼んでいる、やっぱりお兄ちゃんだ。けど、息が荒いのはなぜ。

「はあ、やりたい。好きだ亜紀。はあ、はあ、はあ……」

えっ、もしかしてお兄ちゃん、私をオカズにしごいてるの。

私は顔を真っ赤にして口に手を当てた。しかも好きだなんて。

「はあ、はあ。いく、いきそうだ……」

ダメだ、気まずくてこれ以上ここに居られない。

一刻も早く逃げだしたくなり、足音を立てないようトイレに背を向けて歩を進めた。

しかし、ワックスをよくかけた床がキュッと摩擦音を立てる。

その瞬間、トイレから漏れていた声は止み、ザバーっと水の流れる音が聞こえてきた。

私は冷や汗がでてきて、体が硬直してその場から動けなかった。

「亜紀」

ガチャとドアを開ける音と供に、お兄ちゃんはいつもより低い声で私を呼んだ。

まずい、お兄ちゃんには全てを見抜かれてる。緊張して私の鼓動が早くなっていくのが分かる。

「な、なあにお兄ちゃん?」

声を震わせて振り返ると、お兄ちゃんはトイレから覗き見るように顔だけ外に出して、私を睨みつけている。

こ、怖い。お兄ちゃんは臨戦態勢を取った犬のように歯を剥き出しにして、今にも私を襲ってきそうだ。

「お前、明日までにアフロな」

「えっ? ええ〜〜!」

お兄ちゃんはそう一言告げて、顔を引っ込めて勢いよくドアを閉めた。

なによ、オナニーしてるの聞かれたぐらいで拗ねる事ないじゃない。でかいなりして器が小さいんだから。

それにアフロなんて、恥ずかしくてできないよ。

私は愚痴を零していたが、お兄ちゃんの気持ちを考えると胸が痛かった。

もし、立場が逆だったら、私なら笑って許してあげれただろうか。

そう考えている内に、いつの間にか美容院へと足を運んでいた。

「いらっしゃいませえ。今日はどういった感じで?」

「アフロにしてください」

私はキリッとした真面目な顔で店員さんにそう告げた。

「は、はい」

店員さんは動揺したが、すぐに私の髪を梳かして、アフロに足り得るであろう長い髪を極細のロッドで巻いてくれた。

私はギチギチに巻かれていく痛みに耐え、目をつむってじっと時が過ぎるのを待った。

数時間が経ち、重いまぶたを開けると、大きなマリモが寄生した頭が鏡に映る。

私は即座に目をそむけ、さっさと料金を払って店を出た。

この夜、私が帰宅した時には既にお兄ちゃんは眠っていた。

アフロ代、1万円なり。

 

5月31日、曇りのち晴れ。アフロ。

朝になった。結局、あれからお兄ちゃんには会っていない。

こんなもじゃもじゃ頭を見せれば許してくれるのかと、私は不安に駆られていた。

重い足取りでリビングに向かうと、お兄ちゃんはソファに腰掛けて新聞を読んでいた。

ふう、怖いけど言わなきゃ、ごめんなさいって謝らなきゃ。

私は固唾を飲んで、お兄ちゃんに声をかけた。

「お兄ちゃん、おはよう」

お兄ちゃんは声に反応し、新聞を下げて私の方を見た。

「あっ……」

でも、なぜか驚いたような顔で小さく声を漏らした。

「あの、昨日はごめんね。悪気はなかったの」

私が申し訳なさそうに謝ると、お兄ちゃんは背を向けて、また新聞を大きく広げた。

「えっ、なんで? せっかくアフロにまでして謝ってあげたのに」

そっけない態度に腹が立ち、私は肩を掴んで無理やりこっちに向かせようとしたが、肩を捻って振りほどかれた。

そしてソファの上でうつ伏せになり、新聞をぐしゃぐしゃにして顔を覆った。

なによ、そこまでして私と顔を合わせたくないっていうのね。

「あっ、そおですか。お兄ちゃんがそんなに心の狭い人だと思わなかったなあ」

私は顔をしかめ、見下すように厭味を言った。

「亜紀……」

お兄ちゃんは震えた声で私の名を呼ぶ、全身を小刻みに震わせて。

「なによ、なに震えてるのよ」

変な答え方になった、お兄ちゃんが震えてるのが気になる。

「もう、寝なさい」

あきれた、何めちゃくちゃなこと言ってんの。

「いやです、起きたばかりなのに寝れるわけないでしょ」

私は最もな反論をして、腕を組んでそっぽを向いたが、お兄ちゃんがますます震えているのが気にかかる。

「いいから……ぷっ」

えっ、今、ぷっとか言ったような、そんな声が発せられたような気がする。 

「なに、もしかして笑ってんの?」

私は下から顔を覗き見ようとしたが、お兄ちゃんは体を丸めて顔を見せようとしない。

やっぱり、笑ってる。声を押し殺して笑ってる。

「ひどい、お兄ちゃんがアフロにしろっていったくせに!」

私は強硬手段に出て、激しく体を揺さぶりソファから落とそうするが、ソファに指を食い込ませて必死に抵抗された。

なによ、そんなに笑うことないじゃない。私は手を離して冷たい目でお兄ちゃんを見ていた。

「確かに私が悪かったけどさ、何も笑うことないんじゃないかなあ」

そう聞こえるように呟くと、お兄ちゃんは突然立ち上がって、一目散にドカドカ走りだした。

慌てて私も後を追うが、お兄ちゃんは颯爽と廊下を走り、昨夜オナニーをしていたトイレに駆け込んだ。

「こら〜! 出てきなさい。まだ話は終わってないわよ」

私がトイレのドアをガンガン叩いていると、中から水の流れる音が聞こえてくる。

なに、本当にトイレに行きたかっただけなの、私は耳をぴったりドアに押し当てた。

「ぷっ、くっくっくっく」

笑い声が聞こえる、やっぱり笑ってる。それに水の流れる音もひっきりなしに聞こえてくる。

まさか、笑い声をかき消そうと水を流してるの、そんな子供染みた真似をしてるの。

「ちょっとお、水なんか流してもしっかり聞こえてるわよ、さっさと出てきなさいよ」

声を張り上げて呼びかけるも、中からは笑い声と水の流れる音しか返ってこなかった。

「……ぶふっ〜!」

しかもふきだして笑ってるし。ひどいよ、お兄ちゃんがしろって言ったくせに。

私はドアを叩くのを止め、崩れ落ちるようにその場でへたり込む。

「ひどいよ、あんまりだよお兄ちゃん……」

今度は泣いてるかのような弱い声でトイレに語りかけた。

泣けば、心配して出てきてくれるんじゃないかという安易な発想からだ。

下手な芝居を演じている内、水の流れる音が止み、笑い声も消えていった。

「亜紀」

そして中から私を呼ぶ声が、見事に引っかかったようだ。

「なに、お兄ちゃん」

私は嬉しくなって声がうわずった。

ガチャとノブを回す音が聞こえ、お兄ちゃんの大きな足が外に出てくる。

「まあ、元気出せよ」

「えっ……」

顔を見上げると、なぜかお兄ちゃんは顔にトイレットペーパーをグルグルに巻きつけていた。

「ぷっ、あはは。お兄ちゃん、何でそんな格好してるの?」

顔を指差して笑いを零すと、お兄ちゃんは指を掴んでぐっと顔を近づけこう答える。

「俺の、ポリシーだ」

「ぷっ……、あははははははは!」

怒っていたことも忘れて、私は腹をかかえて笑った。

なによポリシーって、きっと笑わないように顔を隠してくれたんだ。

笑いながらも、しっかり私の事も考えてくれていたのね。

私は笑顔を取り戻し、ふらふら歩くお兄ちゃんの手を引いて一緒にリビングへと戻った。

ありがとう、お兄ちゃん。

 

6月16日、雷。恋。

私はアフロを卒業していた。

お兄ちゃんが毎日ミイラになってちゃ息苦しいだろうから。

妹として、母親代わりとしてお兄ちゃんの健康を考えてあげないとね。

私は元の長い髪をゴムで束ね、ソファに腰掛けてお兄ちゃんとしりとりをしていた。

戦いが始まってもう5時間、お互い一歩も引かないのでピリピリした雰囲気だ。

「亜紀」

お兄ちゃんはそう言って、私を睨みつける。

「なによ」

私もそれに答えるように、顔をしかめて睨み返す。

「マリモ」

お兄ちゃんはニタっと笑ってそう言った。

「マリモ? 次は"え"からでしょ?」

次は踏み絵の"え"なのに、なにいってんのかしら。

「すまん、元マリモ」

「えっ、今、何かいった?」

「亜紀、もう一度、マリモ被ってこいよ」

「なに〜? マリモがなんだってえ?」

怒りの限界に達した私たち兄妹は、お互いに立ち上がり距離を詰める。

お兄ちゃんは首を下げて私の眼前まで顔を近づけ、私も負けじと背筋を伸ばして体を大きく見せる。

お互いに殺気立ち、今にもケンカが始まりそうだ。

「亜紀、もう負けを認めろ」

お兄ちゃんは、声の調子をあげて私を脅す。

「いやよ、子供じゃあるまいし、しりとりぐらいでムキになってんじゃないわよ」

私もムキになっていたが、ここまできて引き下がれない。

「じゃあ、もう寝な」「寝ない」

お兄ちゃんのの決まり文句に声を重ねると、お兄ちゃんは面食らったような顔をした。

都合が悪くなればいつも出てくるこの台詞、私はお兄ちゃんの行動パターンを見切っている。

私は腰に手をつき、勝ち誇ったように鼻でふふんとあざ笑った。

「亜紀」

何を思ったのか、お兄ちゃんは目を細めて指で私のアゴを軽く持ち上げてくる。

「な、なに」

そのまま顔を引き寄せ、私の唇に分厚い唇を重ねてきた。

「うっ、うう〜!」

お兄ちゃんは舌を伸ばして口内へと進入し、私を逃がさぬようギュッと抱きしめる。

貪欲に舌を絡ませ、有無を言わさず激しく吸い付いてくる。

私は目を閉じて、なぜか抵抗もせずその行為を受けいれ続けた。

5分ほど濃厚なキスを交わすと、私は魂が抜けたように呆然と佇んでいた。

「もう、寝なさい」

お兄ちゃんは私を起こすように、髪を撫でて優しく語りかける。

「はい、おやすみなさい」

私は暗示がかかったように素直に言う事を聞いた。

初めてのキスのせいなんだろうか、胸が妙に高鳴る。

体が熱くなって、ベッドの中で寝転んでいてもなかなか寝付けない。

お兄ちゃんの事が、キスされた時の事が頭に焼きついて離れない。

ひょっとして、私は、お兄ちゃんに恋をしたのかもしれない。

 

6月23日、快晴。進展。

一週間経ってはっきり分かる、やっぱり、私はお兄ちゃんに恋をしてしまったようだ。

見てるだけで顔が熱くなって、ボーっとなって見惚れてしまう。

私はこの日、お兄ちゃんに誘われて、一緒にクイズ番組を見ていた。

けど、テレビ画面よりお兄ちゃんの方についつい目がいってしまう。

「なんだ?」

流石に気づいたのか、お兄ちゃんは不審気に私を見る。

「いえ、別に何も」

気持ちを打ち明けた方が良いんだろうか、でも、兄妹だし。

私は貧乏ゆすりをしながら、落ち着きなく何度もお兄ちゃんのほうを見ていた。

「亜紀」

怒ったんだろうか、お兄ちゃんは険しい顔で私を見てくる。

「あっ、ごめんなさい」

思わず謝ってしまった、別に何も悪い事してないのに。

「問題です」

すると、お兄ちゃんは唐突に問題を投げかけた。

「な、なに?」

クイズ番組に影響されたんだろうか、お兄ちゃんの行動が読めない。

「亜紀は俺に惚れている? ○か×で答えなさい」

「えっ……」

私の心を見抜いていたとでもいうのか、お兄ちゃんの質問が胸に突き刺さる。

驚いたけど、丁度いい機会なのかもしれない、胸の内を打ち明けてスッキリしたい。

私は緩んでいた顔を引き締めて、しっかりとお兄ちゃんの目を見据えた。

「○です、ごめんなさい。お兄ちゃんに惚れてしまいました」

自分でびっくりするぐらい、素直に、真っ直ぐ気持ちを伝えることができた。

お兄ちゃんは動じることなく、表情を崩さずに「正解」とポツリと漏らした。

そして私たちは見つめ合い、再び濃厚なキスを交わした。

――そっと唇を離すと、お兄ちゃんは両親が亡くなる以前から、私の事を思っていたと告白してくれた。

私もきっとお父さんとお母さんが亡くなる前から、お兄ちゃんに惹かれていたのかも知れない。

運命かな、きっと私達は生まれた時から結ばれる運命になっていたんだと思う。

兄妹だから結婚はできない、けど、私は前向きに、ずっと、ずっとお兄ちゃんと一緒に暮らしていけると信じてる。

 

7月1日。台風、別れ。

私には分からなかった、何が何だか分からなかった。

お兄ちゃんと両思いになれて、恋人として楽しい毎日を過ごしていた矢先の事だ。

突然、警察が家を訪れ、お兄ちゃんを殺人容疑の罪で逮捕した。

お父さんとお母さんは、本当はお兄ちゃんが殺してしまったらしい。

信じていたのに、ずっと暮らしていけるって信じていたのに。

私は、たった一人のお兄ちゃんに裏切られてしまったのだろうか。

 

3月1日、晴れ、始動。

5年の歳月をかけて、やっとプランができあがった。後は実行に移すだけだ。

亜紀の行動パターン、趣味、骨格、スリーサイズ、指紋に至るまで全て調べつくした。

特に重要であろうこの3つは、必ず抑えて置かなければならない。

1、亜紀はクールな男を好むので、一言に重みを持たせてクールに決める事を心がける。

2、時にはいじらしく責めて女心を揺さぶり、アフターフォローも忘れぬよう心がける。

3、1、2を繰り返し気を十分に気を惹かせた後、強引なキスで一気にノックアウトさせる。

この3つさえ守っていれば、多少計画が狂っても間違いなく亜紀は俺に惚れる。

そうなれば、夜な夜な、あのむっちりとした肢体を弄ぶ事も可能だ。

長年の夢が、遂に現実味を帯びてきたな。

計画の妨げになる親にも、アメと偽ってバイアグラをたっぷり飲ませ続けているし、直にくたばるだろう。

さて、親父とお袋が死ぬまでの間、上腕二頭筋を鍛えておくか。

 

7月7日、晴れ、待つ。

でも、私はお兄ちゃんを信じてる。

お兄ちゃんは人を殺せるような悪い人じゃない。

優しくて、クールで、面白くて、とにかく素敵な人だ。

無実の罪か何かに違いない、きっとそうだ。

私はただ、じっとお兄ちゃんの帰りを待つことにする。

お兄ちゃんが帰ってきたら、優しく「おかえり」って、迎えてあげたい。

 

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